なぜネイティブは基本動詞ばかり使うのか|ゲルマン語と大和言葉に共通する「言葉の力」

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英語を勉強していると、ある不思議な事実に気づく。

学校では難しい英単語をたくさん習ったのに、ネイティブスピーカー同士の会話では take・get・make・go・come といった基本動詞ばかりが飛び交っているのだ。

なぜだろうか。

単純に「簡単だから」ではない。

実はそこには、1066年のノルマン・コンクエストにまで遡る英語の歴史が深く関係している。

💡 この記事でわかること
  • なぜネイティブは難しい単語より基本動詞を多用するのか
  • ノルマン・コンクエストが現代英語に与えた影響
  • 日本人が大和言葉に心を動かされる理由
  • 英語の基本動詞が英語脳の中心になる本当の理由
  • 言語の歴史を知ることで英語理解が深まる理由

ネイティブはなぜ基本動詞ばかり使うのか

学校英語とのギャップ

私たちが学校の英語教育や受験勉強で必死に覚えた、格式高い小難しい単語たち。しかし、実際のネイティブの日常会話を覗いてみると、それらの単語は驚くほど使われていない。彼らが口にするのは、拍子抜けするほどシンプルな言葉ばかりだ。

  • 「購入する」という意味の purchase よりも、圧倒的に buy が使われる。
  • 「尋ねる・調査する」の inquire よりも、日常では ask
  • 「開始する」の commence よりも、親しみやすい start が選ばれる。

実際の会話では基本動詞が圧倒的

特に彼らの会話の「心臓」を担っているのが、以下の基本動詞たちである。

  • take
  • get
  • make
  • give
  • go
  • come

彼らは難しい表現をわざわざ使わず、これらの使い慣れた動詞に前置詞などを組み合わせることで、日常のあらゆる現象を自由自在に表現してしまう。なぜこれほどまでに、特定の基本動詞ばかりが愛されるのだろうか。

1066年が英語を変えた

ノルマン・コンクエストとは何だったのか

その謎を解き明かす鍵は、今から1000年近く前、西暦1066年に起きた英国史上最大の事件「ノルマン・コンクエスト(ノルマン人の征服)」にある。

フランスのノルマンディー公ウィリアムが王位継承権を主張してイングランドを征服し、国王に即位した。これにより、イギリスの支配階級は総入れ替えとなり、宮廷や法律、政治の場ではフランス語が公用語として使われるようになったのだ。

しかし、もともとイギリスの土地に住んでいた一般の庶民たちは、支配層の言葉など使えない。彼らはこれまで通り、先祖代々受け継いできた本来の英語、すなわちゲルマン語系の言葉を話し続けた。ここに、「支配者のフランス語」と「庶民の英語」という明確な身分格差が生まれたのである。

英語は二重構造になった

やがて数百年を経て、この2つの言語は融合し、現在の「英語」が形作られていく。その結果、現代の英語には一つの意味に対して「ゲルマン語系(本来の英語)」と「フランス語系(外来の高級語)」が並び立つ、奇妙な二重構造が残ることとなった。

意味 ゲルマン語系(日常・庶民の言葉) フランス語系(公的・上流の言葉)
尋ねる ask inquire
買う buy purchase
始める start commence
助ける help assist
王の・高貴な kingly royal

なぜネイティブはゲルマン語系を好むのか

子供の頃から使っている言葉だから

ネイティブが日常会話で askbuy、そして基本動詞を圧倒的に好む理由。それは、これらが数百年もの間、家庭の中で親から子へと、文字通り「生きた血の通った言葉」として引き継がれてきたゲルマン語系の生粋の英語だからだ。

彼らが幼少期、最初に母親の温もりの中で覚えるのは、こうしたゲルマン語系の単純な言葉である。机の上で後から勉強するフランス語系の難解な単語とは、脳内での馴染み方が根本から違うのだ。

感情に近い言葉だから

歴史的に庶民の喜怒哀楽を表現し続けてきたゲルマン語は、ネイティブにとって極めて「感情に近い場所」にある。理性的・公式に物事を説明するときはフランス語系を使うが、自分の心からの本音、直感的な感情をダイレクトに響かせたいときには、無意識にゲルマン語系の響きを選ぶのである。

基本動詞は英語の「心臓部」

つまり、彼らが連発する take・get・make といった基本動詞は、ただの便利な手抜き道具ではない。何世紀もの風雪を耐え抜き、人々の生活の真ん中で磨かれ続けてきた、英語という言語の「心臓部(コア)」そのものなのだ。これらを使いこなすことこそが、最も生々しい「ネイティブの感覚」に触れることに他ならない。

日本語にも全く同じ現象がある

大和言葉と漢語

実は、これと全く同じ言語の二重構造が、私たちの住む日本にも存在する。それが「大和言葉(日本固有の地に根ざした言葉)」と、中国から渡ってきた外来の高級語である「漢語」の対比だ。

大和言葉(訓読み・心の言葉) 漢語(音読み・理性の言葉)
こころ 感情
なみだ 涙液(あるいは落涙など)
ふるさと 故郷
おもい 心情
ことば 言語

漢語は論理的で硬質であり、ニュースや論文、公式なビジネスの場には欠かせない。しかし、私たちが日常でふと漏らす本音や、親しい家族と交わす会話のぬくもりは、いつだって柔らかい響きを持つ「大和言葉」の側にあるはずだ。

ちなみに、漢詩を嗜んだ武士も辞世の句になると大和言葉で首尾一貫している。

歌謡曲が大和言葉を好む理由

日本の歌謡曲やJ-POPの歌詞を思い浮かべてみてほしい。人々の涙を誘う名曲の多くは、漢語を極力排除し、驚くほど平易な大和言葉で綴られている。

例えば、昭和の名曲「さよならをするために」(ビリー・バンバン)。この曲の歌詞の背景について、かつて言語学者・評論家であられた渡部昇一先生が著書等で、そのほとんどが純粋な大和言葉(和語)で構成されているからこそ、日本人のDNAに直接、圧倒的な郷愁と切なさを呼び起こすのだと指摘されていたのを深く記憶している。

英語ネイティブが心の底からの感情をゲルマン語系の基本動詞に託す心理と、日本人が「故郷(こきょう)」と言わずに「ふるさと」という響きに涙する心理。ここには、時空を超えて全く同じ「民族の原風景の言葉」への愛着が流れているのである。

ゲーテの言葉が教えてくれること

外国語を学ぶと母語が見えてくる

文豪ゲーテは、私が英語を学んで初めて「大和言葉」の存在に気づいた「外国語を知らない者は、母国語についても何も知らない」という名言を残した。

私たちは英語という他者の言葉を深く学んで初めて、自分が普段当たり前に使っている日本語がどれほど豊かな情緒を持ち、どのような歴史を辿ってきたのかを逆照射するように知ることができるのだ。

私が英語を学んで歴史に出会った理由

私自身、単に「英会話のテクニック」を追い求めるだけでなく、大人の独学として英語の世界に深く潜っていく中で、多くの歴史のドラマに出会うことになった。

翻訳アプリなどない時代に、分厚い研究社の英和辞典を机に置き、1ページ読むのに30分かかったTime誌を必死に読み解く中で出会う現代の息吹、英語の二重構造を決定づけた歴史、さらには宗教改革や、庶民の言葉へとはじめて翻訳された「聖書翻訳」の歴史……。

言葉の背景にあるドラマを知ることは、単なる暗記を「知的な感動」へと変えてくれる。これこそが大人の学びの醍醐味ではないだろうか。

私が基本動詞を重視する理由

基本動詞は単なる簡単な単語ではない

ここまで読んでいただければ、もうお分かりだろう。私が当ブログで一貫して「基本動詞」の重要性を叫び続けているのは、それらが「初心者向けの、安易で簡単な単語だから」では断じてない。

英語ネイティブが何百年も使い続けた言葉

国家が引き裂かれ、支配者が変わり、どれほど過酷な歴史の荒波に揉まれても、イギリスの庶民たちが絶対に手放さず、何百年も命を吹き込み、使い続けてきた最強の生存の言葉。それこそが基本動詞なのだ。だからこそ、そこには強烈な「英語本来のパワー(感覚)」が宿っている。

英語脳の中心にあるのは基本動詞である

この泥臭くも力強い基本動詞の「コアイメージ」を掴み、語順通りに配置する感覚こそが、私が提唱する「英語脳」の中心である。小難しいフランス語系の単語をいくら並べても、この心臓部が動いていなければ、ネイティブの心に響く本当の英会話にはならないのである。

まとめ

最後に、本記事で旅してきた大切な発見を整理しよう。

  • ネイティブが日常会話で基本動詞を多用する大きな背景の一つとして1066年ノルマン・コンクエストの歴史がある
  • それは、私たちが理屈っぽい漢語よりも、血の通った大和言葉を愛する心理と驚くほどよく似ている。
  • 言葉には、ただの記号を超えた民族の歴史と生々しい感情が刻まれている。
  • 基本動詞は単なる初級単語ではなく、英語という言語の最も強力な中心(コア)である。
  • 英語を学ぶということは、単なる技術の習得を超え、世界と言語の壮大な歴史を学ぶことでもある。

次に英語で gettake を使ったとき、あるいは日本語で「こころ」という響きに触れたとき、その背景に広がる1000年のドラマをほんの少しだけでも感じてみてほしい。

その知的好奇心とささやかな感動こそが、あなたの英語学習を単なる作業から、人生を豊かにする最高の冒険へと変えてくれるはずだ。

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