「英会話ができるようになりたい」
そう思って英文法の本を開き、分厚い参考書を読み始めたものの、あまりの退屈さと難しさに途中で挫折した経験がある人は多いだろう。
実は私も、全く同じだった。
中学3年生までの私は、英語を含めてほぼ全教科の成績が惨憺たるもので、高校受験にも失敗し、中学浪人という手痛い挫折を経験している。元から勉強ができたわけでは決してない。
しかし、その挫折から始まった半世紀(50年)近い英語学習の歴史を振り返ると、ある一つの「不思議な事実」に気付くのだ。
それは、**「理屈を完全に理解してから話せるようになったのではなく、ひたすら繰り返していたら、後から勝手に理解できるようになった」**ということである。
そしてこのプロセスは、私たちが幼い頃に母国語を覚える過程、つまり「幼児が言葉を覚える仕組み」と驚くほどよく似ているのだ。
今回は、私自身の泥臭い体験談を振り返りながら、
「なぜ幼児は文法を知らなくても話せるのか」
「なぜ大人の英会話習得にも反復学習が絶対に必要なのか」
そして、「英語脳」が後天的に作られる本当のプロセスについて、私の思想の根っこをお話ししたい。
- ✓ 幼児が言葉を自然に覚える強力な仕組み
- ✓ 私が中学浪人時代に開眼した「反復の力」
- ✓ 多くの大人が陥る「わかってから練習する」の危険性
- ✓ ESCやリンガフォンでの訓練中に私の脳で起きた変化
- ✓ 英語脳がゼロから作られる本当のプロセス
- ✓ AI時代になっても絶対に変わらない語学習得の本質
なぜ私は反復を信じるようになったのか
中学浪人という挫折
私の学びの原点は、15歳という若さで味わった「高校浪人」という強烈な挫折にある。周囲の友人が誰もが次のステージへ進む中、一人だけ取り残された焦りと無力感。あの暗闇の中で、私は「これまでの自分のやり方はすべて間違っていた」と認めざるを得なかった。
予備校の夏休みから始まった計画学習
「もう二度と失敗は許されない」という極限の状況下、予備校に通いながら私が必死に編み出したのが、徹底的な時間管理による「計画学習」だった。とりわけ受験の天王山である夏休み、私は自室の机にしがみつき、独自のスケジュールを組み立てた。
一週間単位の時間管理
例えば『英語の研究と対策』といった受験用の分厚いテキストがあれば、ただ闇雲に開くのではない。「月曜日は○ページから○ページまで」「火曜日はここまで」と、1週間単位のタスクを細かく手書きの計画表に落とし込んでいった。観たいテレビ番組があっても、奥歯を噛み締めてグッと堪え、スケジュールを死守することだけに全神経を注いだ。
赤ペンで消していく達成感
その日にやると決めたノルマを達成するたび、計画表を赤ペンで「シャッ」と力強く消していく。この小さな消し込みの作業が、孤独な浪人生活における唯一の、そして最高の快楽となっていった。自分の手で時間を支配しているという充実感がそこにはあった。
成績急上昇が生んだ成功体験
この手書きの計画表通りに、ひたすら同じルーティンを毎日「反復」し続けた結果、私の模試の成績は驚くべき角度で急上昇を始めた。あれほどどん底だった順位が、見る見るうちに跳ね上がっていったのだ。
「俺ってやればできるじゃん」という確信
「正しい方法で管理し、愚直に繰り返せば、過去の劣等感などいくらでも覆せる。」この時に得た「俺ってやればできるじゃん」という強烈な成功体験と自己信頼こそが、その後の私の人生を支える強固なバックボーンとなった。
わからなくても続ければ理解できることを知った
二次関数が突然わかった日
この浪人時代の時間管理の中で、私はその後の「語学習得」にも繋がる、脳の神秘とも言える決定的な経験をしている。当時、数学の「二次関数」がどうしても理屈では理解できず、チンプンカンプンで頭を抱えていた時のことだ。
藤田君の一言が突破口になった
予備校の友人であった藤田君に、私は「なぁ、この二次関数、いくら解説を読んでもさっぱり意味が分からないんだよ」とこぼした。その時、藤田君が何気なく放った一言が、私の頭に稲妻を落とした。
彼が教えてくれたその一解法、その具体的な解き方のプロセスを聴いた瞬間、私の脳内でバラバラだったパズルのピースが猛烈な勢いで組み合わさった。「――あッ!そういうことか!」と、自室で叫びそうになるほどの衝撃が走ったのを、今でも鮮明に憶えている。
理解はある日突然やってくる
それまでは、いくら考えても霧の中だった。しかし、解き方のパターンを何度もなぞり、計画通りにペンを動かし続けていた(反復していた)下地があったからこそ、藤田君の一言という小さなきっかけで、脳の回路が爆発的に繋がったのだ。理解というのは、少しずつ進むのではない。**「わからないまま続けていると、ある日突然、一瞬でやってくる」**ものなのだと知った。
努力は裏切らないと確信した
この経験から、私は「今は意味が分からなくても、愚直にそのプロセスを繰り返していれば、脳が勝手に答えを導き出す準備を整えてくれる。努力は絶対に裏切らない」と、肌身に染みて確信したのである。
英会話学習でも同じことが起きた
ESCで始めたDialogのリピート訓練
高校入学後、私は福岡の「ESC九州外語学院」へ通い始め、本格的な英会話の特訓に入った。そこでの訓練は、学校の授業のような文法解説ではなく、ネイティブの音声の後に続いて対話文(Dialog)をひたすら声に出すリピート訓練だった。
発音だけはどんどん伸びた
かつて浪人時代に身につけた「時間管理」の癖をそのまま生かし、毎日自宅のラジカセの前で狂ったようにリピートを繰り返した。すると、自分の耳と口の筋肉が驚くほど変化し、発音だけはネイティブ並みにどんどん伸びていった。
意味は完全には理解していなかった
面白いことに、この時の私は、口から飛び出す英文の細かい文法構造や深い意味を、完全には理解していなかったのだ。学校の英語の先生の小難しい話は、相変わらず頭の上を素通りしていた。
それでも口は動くようになった
理屈は分からなくても、何度も何度も口に馴染ませていたおかげで、特定のシチュエーションになると、簡単な英会話フレーズが何も考えずに「勝手に口から滑り出てくる」状態になっていた。
後から理解が追いついてきた
そしてまさに、あの「二次関数」と同じ現象が起きた。のちに長崎玄弥先生の文法書に出会い、TIME誌と格闘したとき、「あ!あの時ESCで何度も口にしていた英文は、こういう文法構造だったのか!」と、後から猛烈な勢いで理解が追いつき、強固な「英語脳」へと昇華されたのである。まずは「音としての反復」が先で、「理屈の理解」は後だったのだ。
幼児はなぜ文法を知らなくても話せるのか
誰も幼児に文法を教えていない
ここで、世界中のすべての人間が行っている「究極の語学習得法」に目を向けてみてほしい。それは、私たちが幼い頃に日本語を話せるようになったプロセスだ。当然だが、2歳や3歳の幼児に対して、主語だの述語だの、過去形だのといった「英文法(国文法)」を教える親はどこにもいない。
ひたすら聞いて真似をしている
幼児がやっていることは、極めてシンプルだ。周囲の大人が話す言葉を24時間ひたすら耳に入れ、それを不完全ながらも「真似して口に出す」こと。ただそれだけである。意味や理屈が分かっているから話すのではない。耳に入ってきた「音」を、そのままオウム返しに反復しているのだ。
間違いながら修正している
最初は「ブーブー、いた」といった片言から始まり、何度も間違え、親に直されながら、また口に出す。脳の中に「この場面では、この音を出す」という膨大なデータが、反復によって蓄積されていく。
繰り返しによって脳内回路が作られる
そうして何千回、何万回と言葉を繰り返しているうちに、幼児の脳内には自然と「言葉の規則性(文法)」が自動的にインストールされる。幼児は、文法を「勉強」したのではない。**「圧倒的な反復によって、脳内に言語の回路を勝手に作ってしまった」**のだ。
私の英語学習と驚くほど似ていた
この幼児のプロセスは、私が中学浪人を経て、ESCのラジカセの前で意味も分からずDialogをリピートしていたあの泥臭い日々、そして二次関数が突然ひらめいたあのメカニズムと、驚くほど100%完全に一致しているのである。
文法から始めると挫折しやすい理由
学校英語の落とし穴
では、なぜ多くの大人が英会話で挫折してしまうのか。それは、幼児のプロセスとは真逆の、日本の「学校英語の落とし穴」にハマっているからだ。
理解が先、実践が後という発想
学校教育では、まず黒板に文法規則を書かれ、「しっかり理解しなさい」と教わる。そして、理解できたらテストでバツがつかないように慎重に英文を組み立てる。「100%理解することが先、口に出す(実践)のは後」という順序だ。
知識は増えても話せない
この順序でやると、脳は「間違えたらどうしよう」「この文法であっているか」というブレーキを常に踏むようになる。結果として、頭の中に英語の知識(辞書)は増えても、実際の会話の現場では言葉が1秒も出てこないという、あの「話せない日本人」が量産されてしまうのだ。
私もその壁にぶつかった
かつての私も、発音だけできて長文が読めない壁にぶつかった際、学校の返り読み(ひっくり返して訳す)の罠に苦しめられた。理解を先に求めすぎる教育は、会話の反射神経を完全にマヒさせてしまうのである。
英語脳は“語順×反復”の両輪で作られる
発音だけでは限界がある
勘違いしないでほしいのは、「じゃあ文法は一切いらないのか」というと、大人の場合はそれもまた極論で行き詰まる。幼児と違って大人の脳はすでに論理的思考が発達しているため、ただのフレーズ丸暗記(発音訓練)だけでは、大人の複雑な思考を伝えるレベルには到達できない。
文法だけでも限界がある
同時に、机の上の文法解説書ばかりを眺めていても、口の筋肉や聴覚の反射は1ミリも鍛えられない。これもまた片輪走行だ。
長崎玄弥先生との出会い
私がこの限界を突破できたのは、やはり長崎玄弥先生の著書との出会いだった。そこで私は、「日本語の語順に訳すための文法」ではなく、「英語の語順のまま、左から右へダイレクトに理解するための文法(語順感覚)」を学んだ。
語順理解が加わった
これによって、私がそれまでESCやリンガフォンで狂ったように繰り返してきた「音のデータ(反射神経)」のストックに、綺麗で強固な「骨組み(論理)」がガッチリと通ったのだ。
二つの歯車が噛み合った瞬間
幼児のように「圧倒的な反復」で音の回路を作り、大人の知性として「英語の語順感覚」をパチリと噛み合わせる。この両輪が揃った瞬間、あなたの頭の中に、日本語を一切介在させない本物の「英語脳」が完成するのである。
AI時代になっても変わらないこと
翻訳アプリは進化した
現代は、スマホ一台あれば一瞬で高精度な翻訳ができる時代だ。AI英会話アプリも登場し、わざわざ泥臭い独学をしなくてもいいのではないか、という声も聞こえてくる。
それでも脳内回路は自分で作るしかない
しかし、どれだけテクノロジーが進化しようとも、**「あなた自身の脳の中に、新しい言語の神経回路(英語脳)を構築するプロセス」**だけは、AIが代わりにやってくれることは絶対にない。自分で筋トレをしなければ筋肉がつかないのと同じだ。
幼児の学習原理は今も変わらない
AI時代になろうとも、幼児が何万回もの反復を経て言葉を獲得する原理は、数千年前から1ミリも変わっていない。そして大人が英語脳を手に入れるための原理も、私がラジカセを回していた半世紀前から何一つ変わっていないのだ。便利な時代だからこそ、この「自分の脳を育てる泥臭い喜び」に、もう一度立ち返る価値があるのではないだろうか。
まとめ
私は理解してから話せるようになったのではなかった
私の50年の英語人生を振り返って、確信を持って言える結論はこれだ。私は、英語を完璧に「理解してから」話せるようになったのでは決してない。
繰り返していたら理解できるようになった
意味も分からず、ただ計画を信じて「繰り返していたら」、脳が勝手に準備を始め、ある日突然、強烈な理解が向こうから追いついてきたのだ。あの予備校の夏、二次関数が突然解けるようになったあの日から、私の習得の本質は何も変わっていない。
幼児も同じ方法で言葉を覚える
世界中のすべての幼児が証明している通り、語学習得の正解は「反復が先、理解は後」である。文法の教科書を見て頭を抱える必要はない。まずは、心地よい音を口から出す楽しさを、体に染み込ませることから始めればいいのだ。
英語脳は誰でも後天的に作れる
便利な現代には、私が10代・20代の頃に喉から手が出るほど欲しかった、この「反復」と「語順理解」を最初から最も効率よく、ゲームのように同時に鍛えられる素晴らしいデジタル教材(私が注目するYouCanSpeakなど、反復と語順理解を同時に鍛えられる教材が今は豊富にある)が目の前に転がっている。環境は、私の時代よりも遥かに恵まれているのだ。
必要なのは才能ではなく継続だった
15歳で全教科どん底、中学浪人の辛酸を舐めた私にできたのだ。あなたにできない理由など、どこを探しても見つからない。必要なのは、生まれつきの才能などではない。自分で立てた計画を信じ、今日一日、口の筋肉が覚えるまで楽しく「素振り」を繰り返す、その小さな継続の積み重ねだけだ。
あなたの脳には、幼児と同じ素晴らしい可能性が今も眠っている。その回路が開く「あの日」の感動を目指して、今日からまた、私と一緒に楽しくラジカセの(あるいはスマホの)再生ボタンを押していこうではないか。
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